和漢医薬学会2016/08/27 00:59

朝の曇天なぎさんぽ。
迷走しつつ力を蓄えている台風10号の影響で、天気が不安定だ。



今日は臨時休診をいただき、年一度の和漢医薬学会学術総会へ。
比較的小さな学会だが、医学と薬学の接点で漢方の基礎固めをしているので、毎年大いに刺激になる。

今年の会場は、東京・品川区の星薬科大学。自分にとって初めての場所だ。
横浜から東横線、日吉で目黒線に乗り換え、武蔵小山から歩く。
武蔵小山は、いつの間にか地下駅になっていて驚いた。

星薬科大のキャンパス。こぢんまりしているが、巨樹が葉を繁らせ、
クラシックな講堂があり、風格と趣きがある。



本館前にある、創立者・星一の像。
息子である故・星新一さんの面影が、どこかに感じられる気がしてならない。
星一さんが亡くなったのは1951年で、オイラが生まれた年だ。
星新一さんは、父・一さんが興した星製薬を受け継いだが、
そのころには既に会社の経営が傾いていたらしい。
星薬科大学は、星製薬の社内教育施設が前身だという。

午前中は、「アレルギー・がん」と「薬理」の口演を聴く。
●川崎医大産婦人科・中村隆文先生の「遺伝子組み換え発癌ウスを用いた十全大補湯・補中益気湯・小柴胡湯による癌治療の検討」。漢方薬を併用にするようになって、子宮頸癌の治療成績が有意に向上している。なぜか。そこを動物モデルで検討した研究。腫瘍局所の炎症が悪化した状態では、十全大補湯・補中益気湯による自然免疫の賦活では効果がなく、小柴胡湯による抗炎症作用、マクロファージの貪食能賦活が有効との結果。示唆に富んでいる。
●徳島大学・福井裕行先生の「阿波晩茶の抗アレルギー作用における薬効発現機構」。阿波晩茶は、先日いただいて飲んでみた。びっくりするほど酸味が強い発酵茶だ。このお茶を日に600mlくらい、つまり湯飲み3,4杯飲むと、抗ヒスタミン剤だけの場合に比べてアレルギー性鼻炎の症状がかなり良くなるらしい。おもしろい。みんなが飛びついたら阿波晩茶が足りなくなりそうだが。ピロガロールという物質が有効成分だそうだ。これは三価の単純なフェノールで、写真の現像液、毛織物の媒染剤、染料の成分などとして使われるようだ。安全性は大丈夫なんだろうか、と思うが、昔から阿波晩茶は飲まれているのだから、そう危険なものでもないのではなかろうか。というようなディスカッションもなかなかのどかで愉しい。
●富山大学和漢医薬学総合研究所・山本武先生の「経口免疫療法による食物アレルギーの治療における葛根湯の併用効果のモデルマウスを用いた検討」。食物アレルギーに対しては、原因抗原を微量から漸増させて経口投与する経口免疫療法しか根本的治療法がない。モデル動物を用いて、経口免疫療法に葛根湯の内服を併用すると、治療効果の増強がみられるという。かなりひどい食物アレルギーで、経口免疫療法中の子供の患者さんを一人みている。試してみようか。
富山大学和漢医薬学総合研究所・横山悟先生の「没薬による免疫チェックポイント分子PD-L1の発現抑制」。免疫機構を抑制するPD-1,PD-L1を標的とする抗体が、これまでにない新たな癌に対する免疫療法として、効果+高価の両面で非常に注目されている。この研究は、PD-L1の発現を抑制する生薬のスクリーニングで、没薬、ヨクイニンなどに活性が認められたという。済木育夫先生を中心とするこのグループは、十全大補湯による癌転移抑制効果とそのメカニズムを明らかにしてきたが、さらにこうした活性をもつ生薬を加えた「十一全大補湯」の開発を目指すという。素晴らしい!
薬理のセッションに移る。
●「慢性ストレスマウスにおける抑うつ様行動に対する加味帰脾湯の改善効果」「香蘇散煎剤及び慢性社会的敗北ストレスの免疫系に対する作用の解析」「マウス気道上皮線毛運動に対する清肺湯の作用」「五苓散による血管内皮細胞の遊走抑制作用」「マウス摘出遠位結腸標本における大建中湯の平滑筋収縮作用:ワサビ受容体TRPA1の関与」といった発表。いずれも、鬱に対する加味帰脾湯や香蘇散、痰が多い気道炎症に対する清肺湯、慢性硬膜下血腫に対する五苓散、腸閉塞に対する大建中湯、というように、臨床的によく知られた漢方方剤の効果を、「なぜ効くか」というメカニズムの解明に結びつけようという研究。なぜ効くかがわかれば、もっと効かせる、にも結びつく。

昼のランチョンセミナー。
●東北大学病院周術期口腔支援センターの細川亮一先生による「頭頸部がんに対する化学放射線療法に伴う口腔粘膜炎に対する半夏瀉心湯の基礎研究と臨床研究」。
頭頸部がんに抗がん剤+放射線で治療をすると、ひどい口内炎ができて、食べられない、話せないで悲惨なことになる。患者のQOLが落ちるし、それで治療が行き詰まることもある。それに対して半夏瀉心湯を併用すると、口内炎の重症度が軽くて済むし、回復も早い。それは、黄芩、黄連、甘草などによるフリーラジカル消去作用、黄芩、黄連、環境による抗炎症作用、乾姜、甘草による鎮痛作用、黄連、乾姜、半夏による抗菌作用が組み合わさって総合的に働くという。半夏瀉心湯は、黄芩を含むから間質性肺炎や肝障害のリスクがあるし、甘草の量も多いから偽アルデステロン症のリスクも無視できない。しかしこの場合の使用法は、エキス剤を溶いてうがいするだけだという。それならこうしたリスクも無視できる。素晴らしい。このように使えるのならば、口内炎に限らず、褥瘡などに対しても外用として使ってみたらどうなのだろう、と思った。残念ながら自分では褥瘡の治療に携わる機会が無いのだが。

午後の部。
●大会長である星薬科大・杉山清先生による講演「漢方理論を基盤として和漢薬の薬理・薬物動態学的研究ー和漢薬イノベーションの創生をめざして-」。
「効果を示す成分は必ず吸収されるという常識を捨て、非吸収成分に着目した」ってのがすごい。だって薬物動態学って、吸収されたものの動態でしょ?その前提をひっくり返すってのが。この人、身体も声も大きいが、考えることもなかなか大きい。腸内細菌、胆汁酸、腸管免疫への影響を考えることができれば、非吸収成分が薬効を示す、ということも、確かにあるわけだろう。実際、人参のサポニンとか、そのたカロテノイド、ポリフェノールなど、注目される成分は、非常に吸収されにくいそうだ。このあたりの研究の進展は、非常に面白そう。吸収されない、ということは消化管内という「外部」に働くというか、生体という生態系に働く、というイメージだろうか。
●続いてシンポジウム「和漢薬の有用性を検証するための研究戦略」を聴く。
自分で研究するわけではないから直接役立つわけではないが、最先端の研究が、どんな手法を用いて、どこまで到達しているのかを理解するには、役にたつ。
ここでは、モデル動物を用いた行動薬理学的研究、生体内のタンパク質(の変化)を網羅的に解析するプロテオーム解析、特定細胞に着目した研究、生体内の特定分子に着目してそれに対する効果を解析するアプローチ、そして医療経済的な研究の5つの側面が採り上げられた。
個別的には、癌患者で骨髄細胞から分化誘導され腫瘍免疫を低下させる骨髄由来免疫抑制細胞(MDSC)に着目した研究では、十全大補湯がMDSCの増加を抑制し、その活性が茯苓にある、という話しが興味深かった。

以上、午前9時から午後4時まで、よく勉強した!

帰りは池上線の戸越銀座駅へ歩く。
中原街道を渡ったところの民家の塀に、こんなものが。
学生諸君! 雑然と通行しちゃダメよ! 笑

戸越銀座は初めてだが、商店街と駅ののたたずまいに懐かしさ爆発。
東急沿線で生まれ育ち、幼稚園から高校まで東急線を使って通学していた。
夢に今も出てくるのはこのころだ。
ここには、あのころの東急沿線の雰囲気が残っている。

地下鉄や他の私鉄を接続して発展している他の線と違い、
この池上線や多摩川線は、化石的に昔の空気を宿しているのだろうな。
3両編成の池上線で蒲田に出た。
センチメンタルジャーニーだ。


ばんめし。
長男坊が来ていて、久しぶりに三人の夕食。
地物イシモチ塩焼き、地物スダチで。

長茄子の焼き茄子も地物スダチで。

カボチャと枝豆煮物。
カボチャの煮物に、皮むいた枝豆を混ぜるだけ。
意外といける。

本日の歩行、11500歩。